【着物リメイク】大島紬をコートにリメイクする方法
和服といえば着物。日本人にとっての民族衣装はやはりなんといっても着物です。ただし、最近では着物を着用する機会もかなり少なくなってきています。今回の着物は一度も着ないうちに亡くなられたお父様の着物を長い間そのまま保存していたため、虫食いにあい着られなくなってしまったので洋服にリメイクできないかという相談でした。
今回の着物リメイク挑戦は亀甲柄の大島紬です。この着物をオールシーズン着られるような裏付きのコートに仕立て直す作業について紹介していきます。
お父さんの着物がずいぶん古くなってて、ボロボロなんだけど、なんとかならないかなぁ?
長い間そのままにしてあったみたいだね。折り目折り目が薄く破けてきているみたい。
大島紬コートのリメイク前に、着物の状態を確認する
1.全体をよく観察するところから始める。
はじめに、全体を広げてみて着物の状態をよく観察してみます
この着物は、かなり長い間タンスの中にしまいこんでいた着物らしく、預かったときには着物も肌襦袢も相当虫食いにあっていました。
ほどく着物は以下の3点。
- 大島紬着物(亀甲柄)
- 大島紬羽織(亀甲柄)
- 肌襦袢
一度も袖を通したことのないこの着物は、たとう紙の中で折り目ごとに両端が特に破れ、かすれがひどい。
「たとう紙」とは、着物を収納する専用の包み紙のこと。「たとう紙」は主に①防カビ②防チリ・ホコリ③防シワの役割を果たします
2.丁寧にほどく
まずはほどく作業からはじめます。着物は、一枚一枚糸がみえないように丁寧に人の手によって手縫いで縫われたものです。
この着物は和裁職人さんの手によって丁寧に、まっすぐに縫われているよ。
へぇ、そうなんだ。知らなかった。
ベテランほどその縫い目は定規で引いたかのような線のように均一にまっすぐに縫われているんだよ。
着物は手縫いとはいえ、ミシンの縫い目と同じようにピタリと縫い目の境目がわからないように正確に縫われており、少し力を入れて縫い目の境を引くと糸がみえるので生地の隙間からハサミを入れて表と裏を離していきます。
直線のところは40~50cm間隔でも糸を引き抜きやすいところもあります。丁寧に丁寧に・・。ただし、今回は着物、羽織、肌襦袢の3着をほどく作業のため少し時間を費やしました。
私は着物をほどくとき、この着物を織っている人や縫っている人の姿をイメージしています。
着物の反物を一日に織る長さは約30cm、長い時間をかけて織り、それをまた人の手ですべて手縫いで仕上げていく。そう思うとどんな端切れも無駄にしたくなくなります。
また、糸の継ぎ目は非常に丁寧に次の糸が継ぎ足しでありほどくのが悔しくなるくらいきっちり継いであります。
これが本職の手縫いの職人技であると思うと頭をひれ伏す思いがします。が、ここで負けてはいられません。この着物に新たな生命を吹き込むのが自分の使命と着物を傷つけないように糸をほどいていきます。
3.地直し
ほどいた着物は生地の傷みがひどいため、一枚一枚ゆっくりと水に浸して、干して半乾き程度まで乾燥するのを待ちます。
今回は3着まとめてほどいたため、すべての着物を干すスペースがなく、えりやおくみの小さなパーツは低温の蒸気アイロンでならして、大きな身頃は干してアイロンしていきました。本来はすべて同じ方法での地直しが必要です。
4.糸で印をつける
着物の折目だったところが破けちゃってうすく透けているけど?
これは・・・。使えない部分になっちゃうから間違えて使ってしまわないようにしつけ糸で印をつけて囲んでおこうね。
次に破れている箇所、うすくすすけている箇所に全て糸で印をつけます。
これは裁断するときに、使えない位置を間違えて型紙部分に入れてしまわないように避けるためです。破れや薄く透けた場所が無数にあり、着物のたたんであった折り目の部分は傷みが特にひどく、ブロックごとにまとめて糸で囲まないと終わりそうにありません。
見た目だけでも相当の穴がありますが、光に当ててみるとその穴はなおさら増えていきます。外の光に当ててみると、見た目ではわからなかった小さな傷がみえてきました(下図)。
無数の傷があるため、傷や透けた場所をすべて避けると、このコートは完成できそうにありません。
見えるところだけでいいんでは?と思うかもしれませんが、コートを仕上げたあとに、そのコートを着たときに光があたって見える逃していた小さな穴がちらちら見えたら嫌なものです
どんな小さな穴も見逃さず、こまかく糸で印をつけておいて、見返しやポケット裏など表に出ない部分は、この傷のある部分をうまく使って作成していくこととしました。
今回はデザインに合わせてどれくらい傷をさけて作れるかが鍵になりそうです。
大島紬コートの製図を描く
次にコートの製図です。このコートは身長155cm、バスト88cm、背丈38cmを目安に製図を作成してあります。
製図はそれぞれのパーツを縫い代を考慮して35cm以内の幅で作成します。
今回の大島紬は男性物の着物地のせいか幅が38cmありました。通常は36cm程度のものばかりですが縫い代を考慮して35cm以内で製図してあります。
今回は縫製の縫い方が主なので製図の内容はまた次の機会に紹介しますね。
着物と羽織は同じ素材で2着あるので、合わせてコート1着分にはなんとか仕上げたいものです。
柄は亀甲柄なので差し込みできることと、柄も細かい亀甲柄なので柄合わせまで考える必要はなさそうです。
『差し込み」ってなに?
「差し込み」とは布地を身頃、袖など必要な型紙を地の目は縦地のまま型紙を逆さまにおいたりしてできるだけ用尺を少なくするために、無駄のないように巧みに配置することだよ
洋裁って次から次へ知らない言葉が出てくるのね。
製図は虫食い部分を考えずに製図して、あとは虫食い布の場所を外して裁断できるようにしていきます。
仮縫い・仮縫い補正
さけて通れないのが仮縫いです。今回は友人のコートなので早速仮縫いで確認です。
友人を自宅に呼び、全身の見える鏡の前でジャケットを脱いでもらって早速コートの試着です。
仮縫いってどんな風にするの?私は何をすればいいの?
試着する人は、試着するものに合わせて着る服や靴を考えてくるといいね。
このコートのときはどんな感じで行けばいいかな?
コートを着る場面に合わせて中に着るものと靴を合わせておけばOK!試着がパーティドレスなら、中は薄いインナーで靴はドレスに合わせて履くヒールがいいよね!
では早速仮縫いに入ります。
仮縫いのときに気をつけることは着用時のコートは肩の位置をしっかり確認してから、全体に変なシワが出ていないか、ボタンを締めたときと外したときと比べてどうか、袖の長さ、丈の長さはどうか、きついところはないか、他に要望はないかなど確認できるところはすべて確認しておきます。
全身の見える鏡の前で、試着を一緒に見て色々チェックするとお互いに全体の不具合がよくわかってきます。
友人の場合は、なで肩で少し反った体型のため、背中にシワが生じたため、肩のラインを変更し、背中をたたんで補正することにしました。
着丈と袖丈も変更、若干丈が長すぎたようです。
<今回の補正するヶ所>
- 肩
- 後ろ身頃
- 後ろ袖外袖
- 後ろ袖内袖
- 丈
- 袖丈
補正する箇所が増えれば増えるほど、型紙はほぼ全体的に修正が必要です。
羽織の裏地を使う
着物の裏地は全体的にかなりすすけていて破れがひどく、コートの裏地としてほとんど使えません。コートの付属品として、使えそうな袖部分のみつなげてスカーフにすることにして、ほとんど破れのない羽織の裏地をコートの裏地として使うこととしました。
もう一つの裏地、これは羽織の裏地のため、かなり派手な柄模様が入っています。
羽織の裏地も昔の風情のある庭園をイメージしていると思われるのですが、知識不足で説明できないところがなんとも残念。
中心部分にだけ柄模様が入っていたので、裁断せずに背中心、ダーツだけ入れて、柄を活かしてこのままコートの裏地に使うことにしました。
しかし、課題があり、コートの長さに対して裏地が足りません。コート丈98cmに対して羽織裏地が70cm、28cmの不足です。
裏地が足りない、もしくは全てにつける必要がないときなど、裏地のつけ方もさまざまです。
<裏地のつけ方>
- 総裏仕立て
- 半裏仕立て
- 背抜き仕立て
今回は総裏ではなく、半裏仕立てで背中の部分に羽織の裏地を使い、柄を崩さないように長めの裏地をつけました
「半裏仕立て」とは、部分的に裏布をつけて仕立てる方法。夏用のジャケットなどは涼しく着るため、秋冬用でも軽くソフトに仕上げる場合もある
表地(コート)に対して圧倒的に足りない裏地(羽織)を最大限に使う
このままではコートに対して同じように型紙を裁断してしまっては、すすけている部分が多いため、裏地が全然足りずに裁断できない部分が出てきます。
本来、裏布は後ろ中心と後ろ脇別々に裁断する予定でした
通常の裏地ならこれでも十分に足りるのですが、今回は羽織の裏地を使っているため、幅と布の用尺に制限があります。
そこで、裏布は後ろ身頃の中心側と後ろ脇の型紙は一枚に合わせて間をダーツで補い、前中心側も前脇と一枚にして間をダーツに、そして2枚の型紙を一枚にしたため脇の縫い代を2mmだけ多めに入れました。
最大の難関は「袖」です。
大きな型紙から先にとることは表でも裏でも同じですが、もともと生地の少ない羽織から裏身頃、表身頃の裏地を裁断したため、外側はゆったりと入るけれど、のこりの内袖側がはいるスペースがどこにもありません。
しまった!
先にポケット裏地を裁断してしまった!!
裁断は必ず用尺の大きいものや長いものからとっていかないとあとになって裁断できないものもあるからはじめに十分な見積もりが必要です。
いや、それは関係ない。もともとポケット裏地はそんなにひろいスペースから裁断してない。
考えた選択肢として、
案① あまり見えない袖裏だから着物の派手な裏地を使う(それくらいなら裁断できる場所がありそう)
案② 全く別の普通の裏地を使う
案③ 外袖側は裁断できるから内袖側だけ別の裏地を使う
①、②は一考できるけれども③は即却下、1ヶ所だけ別の裏地を使うよりは外袖と内袖を別布で補うほうがまだましだ、前後身頃の裏地は裁断が終わっているから、残った外袖、内袖の型紙を見ながら、残っている裏地との戦い、入りもしないのにどうにかしたいと、どうにかできないかと思考錯誤…?
思考錯誤・・・・
これって?
①にも②にも③にも該当しないけど裏地に型紙をパズルのように置きながら考えてみたら!!
ちょっと変則的なやり方になりますが、ひとついい案が浮かびました。本来は下図のように外袖と内袖を2枚合わせて片方の袖が出来上がります。通常はこの方法で裁断が可能です。
今回は裏地不足解消のために同じように外袖と内袖を一枚袖に…とまではいきませんが、内袖の型紙は袖下の直下線で切り分けて前袖下部分を外袖側にひっくり返して外袖側のマエハしにつなげて裁断をします。
残りの内袖後ろ側は10cm✖70cm残っている部分で裁断ができるので、その状態で2枚袖につなげていきます。
できました!
これなら、ゆとり分も同じように入れられるし、同じ裏地をつかっているから違和感もない。
裏地ができたら表身頃と裏身頃を合わせて周りを縫って行きます。このときの一番大事なポイントはラペルと衿を一番先に合わせるということ
ミシン糸2本どり(またはまつり糸1本どり)で襟付け止まりから身頃と見返しを中表に合わせて、次の順番で糸を通します。縫い代はすべて避けて通します。
①裏衿裏面から表襟を通って表襟裏面へ⇒①表襟裏面からラペル表面を通ってラペル裏面へ⇒ラペル裏面から見頃表面を通って身頃裏面へ⇒③身頃裏面から裏衿表面を通って裏衿裏面へ(糸が縫いはじめのスタート地点に戻ってくる)
ここで、はじめに通した糸と最後に通した糸をしごくようにお互いに引いて糸の通りがいいことを確認してからしっかりとお互いの糸を引いて解けないように結びます。
反対側の襟も同じように糸を引いて結びます。
裏衿⇒表衿⇒ラペル(見返し)⇒表布⇒裏衿
しっかり固定されたことを確認したら衿は衿、ラペルから下とそれぞれミシンで縫い合わせていきます。
ラペルはなんといっても洋服を着た時に、顔のすぐ横の位置になるため、コートでもジャケットでも一番目に付く場所なのでここは慎重に縫い勧めていく必要があります。
袖を縫う
ジャケットやコートの場合、身頃と袖は、別々に縫い合わせていきます。
そのため、袖は表袖と裏袖と作っておいて袖ぐりだけをあとで身頃と縫い合わせていきます。
身頃と縫い合わせる時に大事なのは、袖ぐりにはいせがかかるので袖山には細かくしつけ糸でのぐし縫いを2本入れておきます。しつけ糸一本どりで、袖ぐりの出来上がり線から2mm外側に一本、その3mm外がわに一本という感じです。
「いせ」とは、ダーツやタックと同じように平面の布を立体的に仕上げる技法のひとつ。細かくぐし縫いをして蒸気とアイロンで形作り、布面に直接ひびきをださないで仕上げる方法である
ぐし縫いは2本一緒に糸をひいて縮めていくので袖下10cmくらいのところから同じように縫っていきます。いせをかけて縫い縮めたら縫い代だけにアイロンをかけます。(「袖まんじゅう」を使うことを推奨します)
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「袖まんじゅう」とは洋服の袖にアイロンをかける時に使うアイロン台のこと。筒状になったアイロンがけに便利
袖の裏布は一緒に縫わずに内側によけておいて、まずは身頃と袖を縫い合わせます。袖の形が崩れないようにしつけ糸でしっかり縫い合わせてから袖下側から縫い始めて、袖下10~15cm程度はミシンが2回かかるように、ミシンをかけていきます。
コート制作にかかる最後の1/3の時間は手まつり
ドミット芯、肩パッドをつけてから袖ぐり裏布をまつる
ここから後半戦は手でまつる手仕事の部分がたくさんあります
袖ぐりが縫えたら、ぐし縫いはそのまま残して肩に袖山のいせを潰さないように、ドミット芯をつけていきます。次は肩パッドをつけていきます。
ドミット芯ってなに?
簡単にいうと袖山の膨らみを保たせるために袖ぐりの縫い代部分に柔らかい綿を縫い込んでいる部分だよ。
なんだかめんどくさい、それなくちゃいけないの?
袖をきれいに仕上げるためにはあったほうがいいよね。素材にもよるけど共布でドミット芯の代わりをする場合もあるんだよ。
裾は脇と同じように端にロックミシンをかけてから折り曲げて端ミシンをかけます。
方法として裏布でくるむやり方もあるけれど、裏布がすでにないので今回はこの方法でやりました。
終盤残すところはあと少し、段取り良くやっていこう。ここは手縫いが主になってくるので一通り手縫いで作業するものを含めた一連の流れを紹介していきます
- 外回りミシンステッチ(前身頃、ラペル、衿)をかけていく
- 袖ぐりをまつる
- 裾をまつる
- 裏布両脇裾に糸ループをつける
- くるみボタンを作る
- ボタンホールを作る
- ウエストベルトを作る(ミシン)
- ベルト通しを両脇につける(ミシン)
- ラペル裏、両脇下に星どめ
最終仕上げ段階に入りました。
裏地の裁断に少し手こずりましたが、無事に完成することができました
あとはくるみボタンやベルト等付属品をつけて出来上がり、仕上げに全てのしつけ糸をはずして完成!
大島紬の着物は、娘の手によって一年中着用できるトレンチコートとして生まれ変わり、着物では見ることのできなかった姿で季節のシーンを彩ってくれることでしょう。
日本人として着物はやはり一番の民族衣装であり、正装であり、最上級の礼服であると思います一番大事な着物は決して崩すことなく、いざというときのためにいつでも着物がきられるように年に1回は風通しをして大切にしまっておいてください。
そして、その他の着物でもしもリメイク可能なものがあるのならば、タンスの中にしまい込んで日の目を見ることなく、捨ててしまうよりは、その役割を終えることのないようにせめて2番め、3番めに着ることのない着物があるものを、ぜひリメイクしてみることも検討してみてください
残ったはぎれでポーチ制作(おまけ♬)
最後に残った端切れも余すことなくつないでポーチをつくります。
コートに帽子やポーチなど付属品を一つ加えて作るだけでもより一層リメイクしたコートのクチュール感が高まります。
残った素材も余すことなく使うことによって思わぬ福が舞い込むかもしれません。ぜひこちらも一緒に作ってみましょう♬